九州にも冬が訪れた確かこれくらいの時期、小学四年生の私は親戚一同に連れられて石川県に行きました。目的は石川県で働いているばあちゃんの姉の生活を見るためです。私の祖母は66歳でサッカー、バトミントン、ゲームボーイ版マリオ、パチンコなんでもこなす。この話はたぶん56歳くらいの頃。石川県までのルートはまずフェリー(サンフラワー号)で神戸まで→そこから高速を乗り継ぎ石川県まで、だったと思う。まずは大分港をフェリーで出発。車で乗り込む時って人数確認があいまいなのです。私は祖母に言われて座席の足元で荷物になりきって乗り込みました。よくばれなかったな。親戚4人と私と祖父母の7人で個室を一部屋借りた。大人たちは一晩飲み明かし、私はフェリーの中の売店でキーホルダーを購入できたので満足して眠りに入った。次の日の早朝、目が覚めるとそこはもう神戸港目前。支度を整え神戸に降り立つ。神戸港の待合室のようなところで私と祖母は2人きり。親戚と祖父が何かを観光しに行ったので私たちはそこで待つことに。祖母がトイレに行った。好奇心旺盛な小学生には見慣れない場所が珍しく、祖母がいない間に辺りをうろうろしていた。ふと、広い待合室の柱に貼られているポスターに目が止まった。指名手配者のポスターだ。大分ではあまり見たことがない。へぇ〜という感じでそのポスターに見入っていた。そこに後ろから近づいてきた影が。振り返る間もなく話しかけられた。「おじょうちゃん何してんの?」はっと振り返るとそこにはベレー帽をかぶった50代の男性が。「何見てるん?」わたしは「これ」とポスターを指差した。「へぇ〜そうなんや。おもしろい?」「・・・」私が答えずにいると今度はこう聞いてきた。「これおじさんに似てる?」とポスターの人物を指差す。なんだこの人と思いながら「ううん」首を横に振る。次はその横の人物を指し「これは?」と聞く。「ううん」と私。そんなやり取りを何度か続けた時、声のトーンを少し落としこう聞いてきた。
「じゃあこれは?」
「・・・」
私は答えられなかった。なぜならおじさんが指したその人物は、まさにそのおじさんだったからである。ここでうんって言ったら殺される!沈黙を守る私に執拗に聞いてくる。「どうしたの?似てない??」顔を覗き込んでくる。もうだめだ、私は殺される。そう思った瞬間、
「Tちゃん!!何しよんの!こっちにおいで!」
思わぬところから祖母の助けがやってきた。私は走って祖母の元に駆けつけた。「知らん人について行ったらいけんので!!」祖母の言葉は耳に入らない。その人の方を振り返ることは二度となかった。小学生にはちょっとハードな体験。私がそのことを他人に話せたのはあれから4年後の中学2年になった時だった。人に言うと殺されると思ったからだろうか。